MIL規格とは??

世界なき頭脳

ミリタリーグレード

先日 レノボのYogaシリーズ について調べていたところ次のような記述に行き当たった

https://www.lenovo.com/jp/ja/yoga-new

よく製品の堅牢製をアピールする際に使われるMIL-STD-810G

ああ、MIL規格ね。頑丈なんでしょ?

結論から言えば大体合ってる
しかし我々はMIL-STD-810Gという記号の羅列についてどれだけの事を知っているのか
このページではMIL規格を程よく紐解いていこうと思う

概要

分からない事はたいていWikipediaが教えてくれる
便利な世の中である、利用しない手はない

米国国防規格は、しばしば軍事規格、「MIL-STD」、「MIL-SPEC」、あるいは(非公式に)「ミルスペック」と呼ばれ、米国国防省による標準化目標の達成に役立っている。

標準化は、相互運用性の確保、製品の特定要件への適合、共通性、信頼性、総所有コスト、ロジスティクスシステムとの互換性、および同様の防衛関連目的の達成に有益である。

国防標準は、国防以外の政府機関、技術団体、および産業界でも使用されています

https://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Military_Standard

この説明によると、MIL規格とはつまりアメリカ軍が物資を調達する際の基準を定めたものであるらしい

具体的にはアメリカ国防総省( United States Department of Defense、略称: DoD)で制定する
MIL仕様書、MILハンドブック、MIL標準のほか、連邦規格も含まれることが多い
例えば「MIL仕様」は「製品の物理的および、または運用上の特性を記述」しており
「MIL規格」は「製品を作るために使用されるプロセスや材料を詳述」
「MILハンドブック」は「主に編集された情報および、またはガイダンスの情報源」である

要は軍の派遣先の過酷な環境で利用できるような水準で定められた規格なのである

以下詳細

MIL-HDBK防衛ハンドブック防衛規格プログラムが対象とする資材、プロセス、実践、
および方法に関する標準的な手続き、技術、工学、 または
設計の情報を提供する文書。
MIL-STD-967 は防衛ハンドブックの内容と形式を規定している
MIL-SPEC防衛仕様書軍に固有の資材または大幅に改良された商用品に対する
基本的な技術要件を記述した文書。
MIL-STD-961は防衛仕様の内容と形式をカバーしている。
MIL-STD防衛規格軍独自の、または大幅に変更された商用プロセス、手順、実践、
および方法に対する統一された工学的および技術的要件を定める文書。
防衛規格には、インターフェース規格、設計基準規格、製造工程規格、
標準作業、試験方法規格の5種類がある。
MIL-STD-962 は防衛規格の内容および形式を規定している。
MIL-PRF性能仕様書性能仕様書は要求される結果について、準拠を確認するための基準とともに
要件を述べているが、要求される結果を達成するための方法については述べていない。
性能仕様は、品目の機能要件、それが動作しなければならない環境、
およびインタフェースと互換性の特性を定義する。
MIL-DTL詳細仕様書使用する材料、要求事項の達成方法、品目の加工・構築方法など、
設計上の要求事項を記載した仕様書である。
性能要件と詳細要件の両方を含む仕様書も、やはり詳細仕様書とみなされる。

俗に言う「ミリタリースタンダード」とは基本的には上三つを指す事が多い

MIL-STDの例

優に1000項目を超える軍事規格、その項目毎に更に細かい測定要件等がぶら下がっている
膨大な量の情報を一つ一つ見るだけでかなりの年月を費やしてしまう気がする
一応代表的な規格を見てみよう

MIL-STD-105、属性による検査のためのサンプリング手順および表(取り下げ済み)
MIL-STD-130「米軍所有物の識別マーキング」
MIL-STD-167、船舶用機器の機械的振動
MIL-STD-188、電気通信に関連するシリーズ
MIL-STD-196、JETDS(Joint Electronics Type Designation System)仕様書
MIL-STD-202「電子・電気部品」試験方法
MIL-STD-276、多孔質金属鋳物および粉末金属部品の真空含浸のための規格
MIL-STD-348、「無線周波数(RF)コネクタインタフェース」
MIL-STD 461「サブシステムおよび機器の電磁波干渉特性の制御に関する要求事項」
MIL-STD-464「システムに対する電磁環境影響要件」
MIL-STD-498、ソフトウェアの開発と文書化に関するもの
MIL-STD-499、エンジニアリングマネジメント(システムエンジニアリング)に関するもの
MIL-STD-704「航空機の電力特性」
MIL-STD-709、弾薬の色分けに関する設計基準規格
MIL-STD-806、「論理回路図のための図形記号」、元々は米国空軍の規格
MIL-STD-810、機器に対する環境影響を判断するための試験方法
MIL-STD-882、システム安全性のための標準的な実践
MIL-STD-883 マイクロサーキットの試験方法規格
MIL-STD-1168 第二次世界大戦中に使用されたAIC(Ammunition Identification Code)システムに代わる、弾薬製造のための分類システム。
MIL-STD-1234、火工品のサンプリング、検査、試験
MIL-STD-1246、宇宙用ハードウェアの粒子および分子汚染レベル(IEST-STD-CC1246Dに置き換え済み)。
MIL-STD-1376: ソナー・トランスデューサーのガイドライン、特に圧電セラミック。
MIL-STD-1388-2B、物流支援分析記録のDOD要件
MIL-STD-1394、これは帽子の構造品質に関するもので、IEEE1394と混同されることが多い。
MIL-STD-1397、入出力インタフェース、標準デジタルデータ、海軍システム
MIL-STD-1472、人間工学
MIL-STD-1474、小火器用音響測定規格
MIL-STD-1553、デジタル通信バス[23]。
MIL-STD-1589、「JOVIALプログラミング言語」[24]。
MIL-STD-1750、航空機用コンピュータの命令セット・アーキテクチャ(ISA)[25]。
MIL-STD-1760、MIL-STD-1553から派生したスマートウェポン・インターフェース[26]。
MIL-STD-1815、「Adaプログラミング言語」[27]。
MIL-STD-1913、ピカティニーレール、銃器の取り付けブラケット
MIL-STD-2045、コネクションレス型データ転送アプリケーション層
MIL-STD-2196、光ファイバー通信に関するもの
MIL-STD-2361、陸軍の行政、訓練および教義、技術装備の出版物のデジタル開発、取得、SGMLでの配信に関するもの。
MIL-STD-3011、ジョイントレンジエクステンションアプリケーションプロトコル (JREAP)
MIL-STD-6011, 戦術データリンク(TDL)11/11B メッセージ規格(Link-11)
MIL-STD-6013、陸軍戦術データリンク-1 (ATDL-1)
MIL-STD-6016, 戦術データリンク (TDL) 16 メッセージ規格 (Link-16)
MIL-STD-6017, 可変メッセージフォーマット(VMF)
MIL-STD-6040, 米国メッセージテキストフォーマット(USMTF)
MIL-DTL-13486、電気ワイヤおよびケーブル
Mil-Hdbk-310、軍用製品開発のための世界の気候データ
MIL-HDBK-881, 防衛資材品目の作業分解構造(WBS)
MIL-I-17563C, 真空含浸シール材が用途に適合し、そのシール材が部品の寿命を通じて劣化または故障しないことを証明する
MIL-PRF-38534, ハイブリッドマイクロ回路に関する一般仕様書。
MIL-PRF-38535、集積回路(マイクロサーキット)製造のための一般仕様書。
MIL-PRF-46374、腕時計、手首。MIL-PRF-46374、腕時計、手首:一般目的。
MIL-S-901、船舶用機器に対する衝撃試験。
MIL-E-7016F、航空機のACおよびDC負荷の分析に関係する。
MIL-S-82258、ゴム製の水泳用フィンに関するもの。"軍人が水泳目的で着用するゴム製の水泳用フィンと一般的な実用性についての要求事項"

MIL-STD-810

冒頭で触れたMIL-STD-810は「機器に対する環境影響を判断するための試験方法」となっている
これを詳しく掘り下げてみる

MIL-STD-810とは?

MIL-STD-810は、正式名称を「Environmental Engineering Considerations and Laboratory Tests」といい、軍隊で使用される機器の試験と設計要件を概説し、機器のライフサイクルを通して環境ストレス事象を維持する能力を検証するための軍事規格である。

MIL-STD-810で認証された製品が受ける試験方法と手順には、機械的衝撃、振動、温度、低圧(高度)、湿度、菌類、塩霧、爆発性雰囲気が含まれますが、これらに限定されるものではない

このような過酷な条件下での試験や認証を行うことで、軍事関連業者は、購入する製品が耐久性、信頼性、持続可能性を備え、極限環境で使用されるDoDに販売されるソリューションに適合していることを知ることができるのである。

MIL-STD-810GとMIL-STD-810H

末尾のアルファベットは規則の発行年を表す
MIL-STD-810は1962年に初版が発行され、1964年に最初の改定版MIL-STD-810Aが発行
時代に即した試験環境になるよう細かい改定を繰り返し、810B…810C…と発展してきた
多くのPCメーカーが採用しているMIL-STD-810Gは2008年8月に発行
なお最新版は2019年のMIL-STD-810Hである

GとHでは試験内容に変更が加えられているらしいが
バージョンGでは800ページだった規格書がHでは1000ページを超えている
アメリカ軍に納入予定が無い品物にはそこまで厳密に追う必要は無いので
今現在も主流はMIL-STD-810Gなのであろう

MIL-STD-810Gではどんなテストをするのか?

810Gの規格書は3つのパートで構成されている

  1. Environmental Engineering Program Guidelines 環境工学プログラムガイドライン
  2. Laboratory Test Methods 実験室での試験方法
  3. World Climatic Regions – Guidance 世界の気候地域 – ガイダンス

MIL規格に準拠する機器に対し、我々一般人が気になるのはもちろん2番の試験方法だと思う
MIl-STD-810Gには次の28項目の耐性テストが定められている

試験方法500 - 低圧(高度)
試験方法501 - 高温
試験方法 502 - 低温
試験方法 503 - 温度衝撃
試験方法 504 - 流体による汚染
試験方法 505 - 日射(サンシャイン)
試験方法 506 - 雨
試験方法 507 - 湿度
試験方法 508 - カビ
試験方法 509 - 塩霧
試験方法 510 - 砂および塵埃
試験方法 511 - 爆発性雰囲気
試験方法 512 - 浸漬
試験方法 513 - 加速度
試験方法 514 - 振動
試験方法 515 - 音響ノイズ
試験方法 516 - 衝撃
試験方法 517 - パイロショック、発火衝撃
試験方法518 - 酸性雰囲気
試験方法 519 - 銃撃ショック
試験方法 520 - 温度、湿度、振動、および高度
試験方法 521 - 氷結/凍結雨
試験方法522 - 弾道衝撃
試験方法 523 - 振動音響/温度
試験方法 524 - 凍結/融解
試験方法 525 - 時間波形の再現性
試験方法526 - レールの衝撃。
試験方法527 - マルチエキサイター
試験方法528 - 船舶機器の機械的振動(タイプI - 環境およびタイプII - 内部励磁型)

規格書では更に各項目について詳細な試験手順が記されている

例えばメソッド516の衝撃の項目では次のように試験方法が指定されている

すべての面、エッジ、角に対して、つまり合計26回122センチの高さから床に落とさなければいけなかたり

振り子に載せ衝突させる衝撃テスト等を実施しなければいけない

この他にも衝撃テストだけで様々な種類が用意されているのだが

ここまで振り返ると、果たして世に溢れるMIL規格の製品はこの煩雑な試験を全てクリアしているのかというごく基本的な疑問が生じる

「MIL規格に準拠」とは

改めて規格書を見てみると、実はMIL-STD-810は各種試験について最低目標を定めているわけではなく、試験の実施方法について記述しているに過ぎない
これは「MIL規格に準拠」と記されていても、メーカー側にとっては自社の製品に適合する試験方法やアプローチを作成することができる事を意味する
つまりサプライヤーは製品のテスト方法やテスト結果の報告方法について、かなりの自由裁量を持つことができるのである

これは、記載されている試験の多くが特別な設備を必要とし、実施には多額の費用が掛かる為である
しかし堅牢な製品を求めるユーザー側にしてみれば、どの試験方法に対して準拠が主張されているのか、どのパラメータの制限値を選択して試験を行ったのかを確認出来なければいまいち信頼性に欠ける

もちろん製品の種類によっては28項目全てが本当に求められる要件かと言うと、そうでないのものも混じっているのは当然だ

しかし実際に何らかの試験が行われているのであれば、それを公開するのはメーカーにとってもユーザーにとてもメリットだと思うのだが、今とのところそれはメーカー側の良心に一任されている

Lenovo製品のテスト内容は?

ここで出発点に立ち返ると、MIL-STD-810Gを掲げている製品ではどんなテストがなされているのか

幸いにしてLenovoに関してはサイトの情報と残された動画からその内容を推測することが出来るようになっている

Lenovo tech todayというBtoBサイトに12のテストの内容が示されている
ビジネス向け端末の紹介なのでYogaでは無くThinkpadについてであるが
同じMIL規格に準拠させているなら、当然同じ設備を使ってテストが実施されていると考えるのが自然

  • 湿度 30℃~60℃で湿度91~98%。
  • 振動 マルチプルテスト 動作中と電源を切った状態でテスト
  • 太陽輻射 24時間7サイクルの模擬紫外線照射
  • 低気圧 高度15,000フィート(約4500メートル)での運用を想定したテスト
  • 温度衝撃(極端な温度変化) -25~60℃、2時間×3サイクル
  • 機械的衝撃 高加速度と18回以上の衝撃パルスの繰り返し
  • 砂塵 140メッシュ(107ミクロン)のシリカ粒子を6時間サイクル、珪砂を90分
  • 船上振動 4-33ヘルツで2時間振動耐久試験
  • 高温 63℃で24時間保管、43℃で8時間動作
  • 低音 -25℃で24時間保管、‐21℃で8時間動作
  • 爆発性雰囲気 気化燃料環境下でのテスト
  • 凍結・融解 ‐10℃から25℃の連続温度変化

この12項目に加え、公開されている試験動画をいくつか見てみると
耐水性、ヒンジの耐久性等を実施しているのが確認できる

以上の公開情報を総合すると、Lenovoの「MIL-STD-810Gに準拠」というのは充分信頼出来るのではないでしょうか

もっともLenovo製品の全てがMIL規格に適合しているわけではなく
ThinkPadYogaシリーズの一部に限るので機種毎に確認は必要である事を一応言い添えておく


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